優しい心を育むカトリック教育

2017/08/18

師道その五

 

2017年8月18日 

 

むかしむかしのアルバムとともに,高校時代の生徒手帳が出てきた。手帳には当時の時間割が書いてあった。見ると現・古・漢・文と国語だけで四科目の記載がある。現は現代国語,古は古文,漢は漢文,文は文学史だ。今でも覚えているが,漢文の先生は教科書を持たずに,チョークを二本だけ持って授業に来られる。初めての授業で「私の間違いを見つけたら期末は100点だ。」とおっしゃった。黄色と白色のチョークで,漢文が板書されていく。授業が終わる頃には,チョークは書けないほど短くなっている。

 

私を含め生徒の大半は,先生の間違いを見つけ100点を取ろうと真剣に授業に臨んだ。教科書の一文一句と板書を照らし合わせ,先生の教科書を見ない朗読の間違いを見つけようと,全員が真剣に教科書を見て授業に取り組んだが,100点を取る夢は後輩たちに託された。そして100点を取った生徒がいたらしいと,何年か後に風の便りで耳にした。

 

文学史の先生はとにかく板書をなさる。黒板の端から端まで活字のような文字が次々と綴られていく。文学史だから板書の大半が漢字だが,ものの見事に活版印刷の活字のような字が黒板を埋め尽くす。毎時間,黒板二往復は続く板書を必死にノートに写し取ったものだ。不思議なものでその折の写すという作業だけで,作者・作品名,そして一つひとつの作品ができた時代背景を今でも記憶している。

 

私は素晴らしい先生方と出会えて,幸せな学生時代だったと思う。自分が教師になって,板書の奥深さと意義を知ってから,教えるプロとしての精進の結果が,チョークを使い切ってしまう板書力であり,一文字たりとも乱れることのない文字の美しい板書だったと,畏敬の念で恩師を思い出す。

 

gakuintyo-20170815

 

全国で教員採用試験が始まる頃となった。教育という素晴らしい道に続いてくる若者たちが,しっかり板書のできる教師になって欲しいと願っている。POWER POINTもいいが,味のあるその先生にしかできない板書ができる教師になってほしい。

 

指導要領による教育内容の改革だけでなく,子どもたちを取り巻く教育環境も,教員の労働時数の問題点から改革が迫られている。この夏,静岡県吉田町で行われる改革について,ニュースが流れた。2017年度は,夏休みを24日間にしたという。そして将来は,16日間にまで短縮する計画だそうだ。大阪府内でも去年の42日から,今年度は35日に夏休みを短縮した所があるようだ。暑さの息苦しさだけでなく,制度の息苦しさも迫ってきた昨今,教育変革に若い先生方の創意工夫を期待したい。

 

『常に神を愛し 神に感謝し 神を信頼し 神に従うところまで 自己を向上する前に 

まず人間を愛し 人間に感謝し 人間を信頼し 人間に従うところの自己を養わなければならない』

Johann Heinrich Pestalozzi (ヨハン・ハインリッヒ・ペスタロッチ)

 

誕生:1746112

帰天:1827217

スイスの教育実践家、シュタンツ、イベルドン孤児院の学長

フランス革命後の混乱の中で、スイスの片田舎で孤児や貧民の子などの教育に従事する。ペスタロッチは,すべての子どもが教育の対象と考えたことで,「民衆教育の父」であるとたたえられている。著書に,『隠者の夕暮』(1780年),『リーンハルトとゲルトルート』(178187年)、『ゲルトルートはいかにその子を教えたか』(1801年),『白鳥の歌』(1826年)などがある。

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫