優しい心を育むカトリック教育

2017/12/11

聖劇の羊飼い Christmas version Ⅲ

「ぼく羊飼いしたい」

「えっどうして? 博士をしたいって言ってたんじゃないの」

 

母親が,息子との会話に戸惑っている。母親にとっては見た目も威風堂々としている博士役を,息子にさせたかったのだろう。息子の突然の気の変わりように,コーヒーを飲みながら二人の会話を聞いている私の耳には,母親の少々の憤りを言葉の語尾に感じられた。息子と母親の,いつもの主張の違いが始まった。

 

Christmas聖劇の役割には,子どもなりの興味があるらしい。私が帰宅すると,劇の練習の話を連日聞かされる。幼稚園で,練習が始まりつつあるのだろう。どんな役を自分が演じるのかは,子どもにとっても興味津々のようだ。保護者にとっても,うちの子の役は何かと,気をもむことになるのだろう。

 

「どうして羊飼いになりたいの?」

「だって一番最初に,イエス様にあったのでしょ。僕は一番最初が良い」

 

しばし母親と息子の会話に,沈黙が訪れた。「そう。そうなの」母親は息子の主張に異議がありながらも,認めたようだ。この後は,それ以上博士役を勧める声は聞こえなかった。その代り,いつものように「早くしなさい。遅れるわよ。行くわよ」と,せわしない声が家中に響き,二人して慌ただしく幼稚園へ向かった。

 

なるほど,博士の役から羊飼いに変わったのは,こういう事だったのか。息子の選択は,いいんじゃないかなと思う。役に対して,母親としてのプライド的なものがあるのだろうが,イエスに最初にあった人物を息子は理解しているのだ,たいしたものだと心の中で得心し,少しいい気分になった。

 

gakuintyo-20171211

 

【ルカ福音書2章】

 

マリアは月が満ちて、初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。すると、主の天使が近づき、主の栄光が 周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。天使は言った。

 

「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」すると、突然、この天使に 天の大群が加わり、神を賛美して言った。

 

「いと高きところには栄光、神にあれ、地には栄光、御心に適う人にあれ。」

 

天使たちが離れて天に去ったとき、羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか。」と話し合った。そして急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉桶に寝ている乳飲み子を探し当てた。その光景を見て、羊飼いたちは、この幼子について天使が話してくれたことを人々に知らせた。聞いた者は皆、羊飼いたちの話を不思議に思った。しかし、マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた。

羊飼いたちは、見聞きしたことがすべて天使の話したとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。

 

生まれたばかりのイエスさまが最初にあったのは,羊飼いたちでした。羊飼いたちは,天使の呼びかけを素直に受け止め,天使の導きに従って行きイエスさまと出会い,神さまを賛美し感謝しました。そして,イエスの誕生の喜びを伝え,神を崇め賛美したのです。世界で初めてイエスに遭い,世界で初めて宣教活動をしたのは羊飼いだったのです。息子の「いちばんが良い」という考えは,間違ってはいなかったのです。

 

これが世界の歴史で初めての「クリスマス」の姿,クリスマスの原型なのです。

 

やさしさと温かさに満ちたこの情景を心に留めながら,聖劇の役にこだわらずクリスマスをお祝いできるといいですね。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫