優しい心を育むカトリック教育

2018/01/15

ユダヤの庭

庭をみれば,「庭師」がわかる。その庭師がどのような技量で,何を構想し,この庭で人に何を伝えようとしたのかは,庭を観賞する受け手の技量と作り手の技量によって完結するが,作品としての庭には庭師の全てが込められていると言える。同じことが学校にも,言えるのではないだろうか。教室やエントランス,また廊下を歩けば,その学校の雰囲気が伝わって来るのは不思議だ。研究会などで学校を訪問すると,研究授業の根底にある教育力は,授業よりも学校の雰囲気に漂っていることが多い。個人の部屋も同じだ。その人の部屋がどんな状態なのかによって,その人の現在がわかってしまう。心理状態までも,伝わって来る。仕事にどれだけ打ち込んでいるのか,趣味は何か,どれだけ健康に気を付けているのか等が,知らず知らずの間に伝わって来る。

 

gakuintyo-20180115

 

私は時折,ユダヤ人ですと自称する知人の家を訪問した時のことを思い出す。奥様は日本人で,子どもは日本の学校へ通い,本人は流暢に日本語を使いこなし,家庭では日本語で会話している。帰化する前の国籍は,アメリカだ。なぜ本人がROOTSのJUDAEAに固執するのか,家を訪問した時私は何となく理解できた。

 

彼が信仰するユダヤ教では,教義はただ暗記するのではなく,学習と分析が重要であるとされているそうだ。会えばいつも,日本の教育について,議論を仕掛けてくる。ちょっとめんどくさい奴だと思うのだが,議論の中で教えられることが多い。彼曰く「日本の教育は,暗記さえすれば,学校で優秀な成績を取れるようになっています。インプットしてそのままアウトプットするだけでは,新しい物を生み出すことはできません。だから日本は,発展をやめたのです」と,これは確かに一理ある。そして再度,彼曰く「ユダヤでは,私たちはあらゆる状況下において,なぜ? どのようにするのか?と,分析と実践する方向にまで思考することが,教育の中に取り入れられています」と説明する。

 

「日本の学校は,なぜ興味を持たさないのですか。好きな分野を見つけさせないのですか。好きなことから学びは始まるのに・・・」と,彼は強く主張する。確かに暗記を伴う学習は脳に書き込んで,必要な時に必要な物を出す単純作業で,つまらないと感じる生徒も多いだろう。このことを捉えて,彼はいつも分析脳を育成することが,真の教育だと主張する。

 

好きな分野で仮説をたて,データを読み取り追求していく主体的な学習活動は,脳の発達に効果があり,柔軟な思考が育つだろう。自分が好きな分野であれば,新たな発見にわくわくする瞬間が多くなり,学習効果は絶大になるだろう。自分の仮説が正しくないと気がつけば,これまでとは違ったアプローチが必要になり,さらに柔軟な思考が育っていくと考えられる。彼の教育に対する説は,これからの日本の教育界が,いや最前線の先生たちが,積極的にCURRICULUMMANAGEMENTするかしないかに,かかっていそうだ。

 

分析脳は,生き抜くための知恵だとJudaeaのタルムードの一部を教えてくれた。タルムードは「口伝律法」を収めた6部構成で63編から成るそうだ。彼の家の冷蔵庫や階段・トイレの壁に,先祖の教えとタイトルが付けられた張り紙がある。いつも読むたびに納得させられ,不思議な戒めとも捉えることが出来る。

 

冷蔵庫の張り紙

先祖の教え(このようなタイトルが付けられている)

人の話の腰を折らない。

答えるときにあわてない。

常に的を射た質問をし,筋道だった答えをする。

自分が知らないときはそれを認める。

本のない家は,魂を欠いた体のようなものだ。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫