優しい心を育むカトリック教育

2018/05/24

八十八夜の別れ霜

『茶 摘』

夏も近づく八十八夜  野にも山にも若葉が茂る

あれに見えるは  茶摘じゃないか  あかねだすきに菅(すげ)の笠

 

日和つづきの今日此の頃を  心のどかに摘みつつ歌ふ

摘めよ 摘め摘め  摘まねばならぬ  摘まにや日本の茶にならぬ

 

 

この季節になると,なぜか八十八夜の歌詞が,思い出される。

 

八十八夜は雑節のひとつで,立春からかぞえて八十八日目にあたる日で,2018年は五月二日だった。清々しい日が続く良い季節だが,「八十八夜の別れ霜」・「八十八夜の泣き霜」などといわれるように,遅霜が発生する時期でもある。そして「九十九夜の泣き霜」という言葉にもあるように,5月半ば頃まで,泣いても泣ききれないほどの大きな遅霜の被害が,発生する地方もあると言われている。一方,この頃から霜も降りないようになり,安定した気候へと変わっていくので,茶摘み,苗代のもみまき,蚕のはきたてなど,一般に農作業開始の目安とされている時期となる。

 

農作業にとっては非常に大切な暦であるが,冷凍食品が一般化し,品種改良が進み,食糧の輸入が普及した昨今,農作業に関する季節感は,どのようになっていくのだろうか。

 

子どもの頃,どの家庭でも,お茶の葉っぱからお茶を作っていた。今のように,お茶を自動販売機で買ったり,スーパーで購入したりすることが一般化するなど,予想しえなかった。ましてや,水を自動販売機で買う時代が訪れるとは,予想だにしなかったことだ。季節感と共に,飲み物や食べ物の感覚も変わっていく。骨なしに加工した魚の切り身もさることながら,清涼飲料水を飲みながら,食事する事が習慣になるなど,事情は変わっていくものだと実感させられている。

 

数年前だが,東京の友だちに,「もみじ」の天ぷらって知ってるかと尋ねると,「なんだ、それっ?」という質問が返ってきた。「紅葉を食べるのか・・・? 本当か?」と疑いの声で,しつこく何度も問い直された。今,その友達が「お茶の天ぷら,知ってるか?」と聞く。知っていたら,やっている店に案内しろと,電話してきた。抹茶のソフトクリーム・抹茶のかき氷や,お茶の羊羹・お饅頭は知っているが,てんぷらは正直知らなかった。紅葉の天ぷらは食べたことがあるが,お茶は飲むもので,てんぷらにするはずなどないと思ったが,お茶の葉の天ぷらは,不思議とイメージできた。調べてみると,結構昔からお茶の葉は,食べられていることが解った。

 

春の味覚といえば,たらの芽やふきのとうなどの山菜の天ぷらが一般的だが,「新茶の天ぷら」は,茶処ではわりとポピュラーな食べ方だそうである。昔から「初物を食べると,75日長生きする」と言われているが,新茶の天ぷらは,何故か長生きできそうな気がした。

 

店主曰く。

冷水に茶の葉をひたして,パリっとさせる。

薄からず,厚からずの衣を付けてカリっとあげる。

短時間で二度揚げして,より一層「かりっ」とさせる。

塩をまぶして食べる。食べた後,お茶の苦みが口の中にふわ~~っと広がる。

この苦味が程よく,爽やかでしょ。大人の味ですよ。

 

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫