優しい心を育むカトリック教育

2019/01/29

行動規範

「人の嫌がることをするな」・「人に迷惑をかけるな」等,人としての常識を,幼い頃から私たちは教えられ躾られてきた。このような行動規範を基に,子どもの頃に躾けられたことは,大人になってからも,その人の資質の基盤であり,人生の指針になっていることは確かだろうし,いざというときに,人は幼い頃に教えられた価値基準に基づいて,行動すると言えるのではないだろうか。

 

一つの行動規範を考えさせられた印象深い出来事が,日韓共催ワールドカップの前の年2001126日に起こった。東京の山手線新大久保駅で,泥酔した日本人男性がホームから転落した。日本と韓国の懸け橋になりたいという大志を抱いた韓国人留学生の李秀賢(イ・スヒョン)さん(享年26歳)が,その場に居合わせた日本人カメラマンの男性(享年47歳)と,線路に飛び降り救助を試みたが悲しいことに3人とも亡くなった。 見知らぬ人のために命を投げ打った2人の行動は,日韓両国から称賛された,とりわけ秀賢さんの国境を越えた勇気ある行動に,多くの人々から驚嘆の声があがった。秀賢さんの父盛大さんは,「息子の死を知ったときは,正直,驚きや後悔,悲しみのほうが大きかった。しかし秀賢を誇りに思えるようになったのは,日本のみなさんが息子をたたえ,温かい言葉をかけてくれたからです」と語られていた。

 

「人の嫌がることをするな」・「人に迷惑をかけるな」ではなく,「人にしてもらいたいと思うことを,人にもしなさい」と,イエスは語られる(ルカ福音書6章)。「人にしてもらいたいと思うことを,人にもしなさい」という言葉は,「人の嫌がることをするな」・「人に迷惑をかけるな」という躾の言葉よりも,さらに深みのある,尊い人の道を示唆しているのではないだろうか。しかし,この行動規範は理解できても,実行しにくい内容を含んでいる。

 

「自分だったら,誰かに助けてもらいたいと思う」と考えるならば,助ける行動の道を歩めと,イエスは言われる。この言葉の持つ意味を理解するなら,見て見ぬ振りをすることはできなくなるはずだ。人に対して積極的に,自ら関わることになるからだ。人と関わるということは,簡単なことではなく,なかなか大変なことである。 しかし,この韓国の青年のように,国籍なんて関係なく,ただ目の前の人を救おうとする行動力を,私たちは心のどこかに潜在的に持っている。そして,このような精神を受け継いでいる若者たちが,世界には多くいて,未来の平和な生き方に気付いてくれると,信じたいと思う。

 

【マザー・テレサの言葉】

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。

言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。

行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。

習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。

性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

 

コルカタの聖テレジア  (マザー・テレサ)MotherTeresa    「神の愛の宣教者会」の創立者

生 誕  1910826日     

帰 天  199795日(87歳)

列福日  20031019日     

列聖日  201694

 

 

同会の目的は「飢えた人,裸の人,家のない人,体の不自由な人,病気の人,必要とされることのないすべての人,愛されていない人,誰からも世話されない人のために働く」ことである。テレサは修道会のリーダーとして「マザー」と呼ばれるようになる。 活動の初期の頃は、地元住民たちはホスピスに所属している者をキリスト教に改宗させようとしているという疑念を抱いていた。しかし,彼女たちはケアする相手の宗教を尊重する姿勢を貫き,亡くなった者に対しては,その者の宗教で看取っていた。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫