優しい心を育むカトリック教育

2019/09/18

不足

先日,用事でスーパーに出かけた。店内で目的の物を探していると,仮装用の服や被り物販売のコーナーが目に留まった。子ども用にしては少々サイズが小さいなと思い,よくよく見ると,なんとハローウィン用で,しかもペット用だ。なんと,まだ9月なのにとあきれた。

 

どうやら,消費税増税前のキャンペーンで,販売されているようだ。天井から,「消費税前ポイント3倍」の大きなボードも下がっている。そういえばレジもいつもより混雑し,長い列ができている。トイレットペーパーの大きな袋をカートにいくつも入れ,ティッシュペーパーの箱を山積みし,洗剤も数本等々,日用品コーナーのそこここでは,多くの日用品が溢れているカートが目に入る。この光景から,オイルショックの時を思い出した。「お一人様2つまで。」と大声を張り上げて,トイレットペーパー売り場で,臨時のバイトしていた事を思い出した。日用品が無くなるとか,不足するという情報は,市民の生活を混乱させ,景気が一気に後退し,やがて就職難にも発展した。

 

 

1973年,第4次中東戦争で,アラブ産油国が石油輸出を停止したため原油価格が高騰し,世界に衝撃を与えた。そして第4次中東戦争の勃発に伴うアラブ産油国(OAPEC)の石油戦略により,安価なアラブ原油に依存していた西側先進工業国に,燃料不足・原料不足をもたらし,石油関連商品の生産が低下して,急激な物価上昇となった。この石油禁輸は,1974年春には完全に撤廃され,石油供給に関する危機も急速に薄らいだが,先進各国は不況とインフレの同時進行で,大きな打撃を受けた。日本でも石油関連製品の買い占め買いだめ,などにより、「狂乱物価」という現象が起き,当時の大学卒業世代は,極度の就職難に陥った事を覚えている。

 

トイレットペーパーや洗剤などの生活用品が不足するという「うわさ」が流れ,市民がパニック状態になった現象は,学生時代,心理学の演習のテーマにもなったのでよく覚えている。この原因は,当時の石油に対する経済の依存度の高さと,潜在的に値上がりが続いていた状況が,人々を不安にさせ,買い占め・買いだめという行為に至ったのであると,演習では結論付けたと記憶している。不足するという不安は,過去でも現在でも変わらず,値上げ前に買い込むという現象を起こしてしまうのだが,これは人間としての本能なのだろう。

 

今回の消費税の値上げは,あの時ほどの混乱はしていないが,11月のハローウィンの関連商品や,ハローウィン関連のペット用品を売り出し,ポイント3倍という消費者の心理を見抜いた商戦は,さすが日本の商戦戦略だと妙に感心した。ペット関連用品にまで商戦が及んでいる日本は,平和なのだろうなぁと感じた休日の午後であった。   (次号へ続く)

 

『われわれは生産をあまりにも重視し、消費をあまりにも軽視しすぎる。』 「怠惰への讃歌」より

 

Bertrand Arthur William Russell   バートランド・ラッセル

誕生 1872518

帰天 19702月 2

 

イギリス・モンマスシャー州出身の論理学者,哲学者,数学者。アリストテレス以来最大の論理学者の一人と称される人物であり,特に素朴集合論において矛盾を導く「ラッセルのパラドックス」で知られる。また,哲学,教育思想,社会思想などの分野でも活躍し,1950年に「人道的理想や思想の自由を尊重する,多様で顕著な著作群」を表彰して,ノーベル文学賞を受賞。

 

(主な著作)

『怠惰への讃歌』『幸福論』『結婚論』『教育論』『西洋哲学史』『心の分析』『論理的原子論の哲学』『哲学入門』『表示について』『数学原理/ホワイトヘッドとの共著』『数学の諸原理』など。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫