優しい心を育むカトリック教育

2019/10/25

一つの言葉

先日,国語の教材の中から道徳の教材として,使用できるものがないかと探していたら,北原白秋の詩に出合った。SNSの短文社会に生きている私たちは,今たった一つの言葉に左右されてしまう事が多い。改めて読んでみた。

 

『ひとつのことば』

ひとつのことばで けんかして    ひとつのことばで なかなおり

ひとつのことばで 頭が下がり    ひとつのことばで 心が痛む

ひとつのことばで 楽しく笑い    ひとつのことばで 泣かされる

ひとつのことばは それぞれに       ひとつの心を持っている

きれいなことばは きれいな心       やさしいことばは やさしい心

ひとつのことばを 大切に           ひとつのことばを 美しく

 

彼が生きていた時代には,LINEやツィッターなどなかったが,それでも言葉一つによって,人間関係や人生が左右されていたのだろう。そういえば言葉の無断使用で,一つの番組が放送を中止した事があった。深夜番組だったけれども,高視聴率が期待されていたにもかかわらず中止になった。

 

事の発端は,同番組の人気コーナー『断捨離の窓』だったそうだ。世の中の無駄なもの,いらないものについて語り,不要なものを減らす『断捨離』を提案するという内容だった。

 

ところが,『断捨離』とは「クラター・コンサルタント」という肩書で活動する方が提唱する片づけ術,及び考え方の事を表し,ヨガの教え「断行・捨行・離行」から着想を得て生み出され,「モノヘの執着を捨てること」がコンセプトだという。2010年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた事もあり,『断捨離』という言葉は広く世間に浸透している。しかし,『断捨離』という言葉は商標登録されていたので,この番組は商標登録が持つ『使用権』と『禁止権』に触れていたとして,放送中止となった。

 

事前によく調査し,話し合って,当人の許可を得ていれば,このような問題も発生しなかったのだろう。

言葉を使うとき,いつも相手を気使う事,尊敬している事,つまり人としての生き方が問われるのが,言葉なのだろう。

 

 

『言葉は心』と言える。「まるい卵も切り様で四角, 物も言い様で角が立つ」と言われているが,言葉で相手に不快を感じさせる事があるし,不快を感じさせられる事もある。思考にゆとりがないと,一生の別れになる言葉を発してしまう事もある。人間しか持たない言葉と文字を,いかに大切にすべきか考えたい。

 

八正道の教えに,正見と正語は正しく考え正しく語る事であり,いかなる時も正しく考えつくし,正しく発言せよと戒められている。相手の心に寄り添い、出来るだけ傾聴の姿勢で相対する事が,「言葉」を理解する事ではないだろうか。

 

『言うは鈍感で 聞く人は敏感なもの 言葉は傷つける武器にもなります 言葉は心の鏡です』

格言より

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫