優しい心を育むカトリック教育

2016/11/25

以心伝心

2016年11月25日(金)

 

文章を書く機会や,人前で話をする機会が年を取るたびに増えた。

若かりし頃は,人の挨拶や話を聞いているのが苦痛だった。自分の過去をひとしきり自信満々に語ったり,どんなに苦労して今があるかなどを延々と聞かされた。決して内容は否定しないが,一方的に人の話を長時間にわたって聞かされるのは,何とも苦痛に近い状態だったことを記憶している。

 

今,人前で話をするとき,ひょっとして若かりし頃嫌っていた立場に立っていないかが,心配で怖い。

自分が嫌っていた姿に,今なっているのではないだろうかと不安になる。

 

自分を知ってもらうことだけや,自分の考えを伝えることだけを意識すると,肝心の心は伝わらないのだろう。

言葉は心を伝える道具ではないだろうか。言葉に心を込めないと,自分の心は人には伝わらないのではないだろうかとしきりに反省している。人の心に伝わる話ができるようになるには,相当な修行が必要だとも悟っている。

「若者泣かすな。来た道だ。」「年寄笑うな,行く道だ。」誰しも若かりし頃があり,誰しもが年寄りになる。自己反省を促す言葉として,今真摯に受け止めている。

 

未来を担う若者たちに伝えたい言葉がある。

 

俳優の高倉健の言葉に「言葉というのは,いくら数多くしゃべっても,どんな大声出しても,伝わらないものは伝わらない。自分の中では,言葉は少ないほうが伝わると思っています。」というのがある。そういえば彼が出演した映画では,台詞より立ち居振る舞いそのものが,人に伝える心であり生き様だったと思う。だからこそ彼の演技や台詞は,広く人々の心に伝わったのだろう。

 

文字に込められた思いを読み取る豊かな心の持ち主になるために,以心伝心を悟る人になるために,三つの願いがある。

◎自分を励ます言葉や自分を戒める言葉に,出会ってほしい。

◎共感する言葉に,出会ってほしい。出会いの為に,多くの本を読んでほしい。

◎多くの本を読んで,新たな言葉に出会い,そこから作者の心に出会ってほしい。

 

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『一日一日を始める最良の方法は,目覚めの際に今日は少なくとも一人の人間に,

一つの喜びを与えることができないだろうかと,考えることである。』

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(独: Friedrich Wilhelm Nietzsche)の言葉

                              生誕:1844年10月15日

                              ドイツの古典文献学者、哲学者

                              帰天:1900年8月25日

 

 

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫