優しい心を育むカトリック教育

2017/01/11

師道 その二

2017年1月11日(水)

 

「貴殿は,シホウハイをご存知かな」と,宮司を務める御方(老師)から年明け早々に質問された。 貴殿と言われても・・・それほどのものでもないのにと,戸惑っていると。

 

「人を教え導いておられると聞いております。」「ならば日本の良さを伝えてくだされ。」

はて,何のことやら・・・教え導くなんてたいそうな・・・と,いちいち心の中で反論しながら,思案してみたが,漢字すら浮かばない。そんな私の意中を読み取ったかの如く,次々と説明を繰り広げてくださった。

(以下はその時のメモをまとめました。)

 

天皇陛下は,元旦の日が昇る前に四方拝と呼ばれる祭祀を野外でおこなわれるそうだ。宮中祭祀の中でも最も重要な祭祀の一つと言われ,飛鳥時代に始まり平安時代に正月の祭祀として定着し,現在まで続けられている。 歴代天皇だけが執り行い,天皇陛下にしかできない。

 

夜明け前,皇居の神嘉殿(しんかでん)の前の庭で執り行われる,屏風に囲まれただけの空間の中で,四方の神々に祈る(天地四方と山稜を拝する儀式)式で,次のように祈られるのだそうだ。

説明についてきていないのを察知して,老師は『江家次第』(ごうけしだい)を読みなさいと,コピーを手渡してくださった。

 

賊冦之中過度我身(ぞくこうしちゅうかどがしん)

賊冦の中、我が身を過し度せよ

 

毒魔之中過度我身(どくましちゅうかどがしん)

毒魔の中、我が身を過し度せよ

 

毒氣之中過度我身(どくけしちゅうかどがしん)

毒氣の中、我が身を過し度せよ

 

毀厄之中過度我身(きやくしちゅうかどがしん)

毀厄の中、我が身を過し度せよ

 

五急六害之中過度我身(ごきろくがいしちゅうかどがしん)

五急六害の中、我が身を過し度せよ

 

五兵六舌之中過度我身(ごひょうくぜつしちゅうかどがしん)

五兵六舌の中、我が身を過し度せよ

 

厭魅之中過度我身(えんみじゅそしちゅうかどがしん)

厭魅の中、我が身を過し度せ

 

百病除癒(ひゃくびょうじょゆ)

所欲随心(しょよくずいしん)

急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)

 

「もし今年、日本に災いや不幸がおきるのであれば、まず、私の体を通してからにしてください。私(天皇)が最初に犠牲になります。」と言う意味ですと語り,老師はしばらく黙された。頭を垂れ,黙されている姿が印象的だった。

 

再三出てくる過度我身をどのように解釈すればよいのか。漠然とした理解ならできるが,明解に理解したくて,辞書を開いてみた。学術研究においては,道教の常套句的文言として「守りたまえ」の意味として解釈されてきた。と書かれている。

 

しかし,「守りたまえ」の文言はたくさんあるが,何故この「過度」の文言が使用されたのだろう,語源に詳しい『説文解字』や『経籍餐詁』によれば。

 

「過」・・・・・・すぎる、わたる、よぎる、あまねく と言う意味。

「度」・・・・・・悟らせる、という意味。

 

と書かれていた。つまり,罪障は我が身を通して悟りへ至らしめんということ。単純に「罪障から私を守ってください」ということではないのだと理解した。もっと意図が強く,罪障を呼び寄せ,悟りへの導きを促す意味が「過度」には含まれているらしい。

 

gakuintyo-20170111d

 

家内の事を祈っている我々の先に,宇宙的祈りをしてくださっている方がおられることを

老師は,『日本の良さ』と表現して私に伝えられたのではないだろうか。

 

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫