優しい心を育むカトリック教育

2017/08/01

せんす

 

2017年8月1日 

 

毎朝ラジオを聴きながら車を運転している。

 

今朝の話題は,京都の伝統工芸を引き継いでいる若干28歳の若き職人の話だった。家業の京扇子店を跡取りとして引き継いだそうだ。学生時代は跡継ぎなど全くその気がなかった彼女が,若くして伝統工芸を継ごうとした理由を聞いて感動した。職人の「もの」に対する心が,職人の姿に現れ,形となって扇子となっていく,人と物の姿に感動したのが家業を継ぐ意思決定の始まりだったそうだ。

 

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華々しいファッション界やマスコミの世界ではなく,一見地味な伝統を守る世界に身を置いた彼女の言葉から,「守破離」という言葉が出てきた。この子いや失礼,この方は伝統職人としての道を究めつつあると感じた。彼女は扇子の世界の「守破離」をこう説明をしてくれた。「守」は伝統工芸の職人としてのわざ,基本の型を見につける段階。「破」はその型を破って,応用する段階で伝統の歴史を現代の好みや世相に合わせて再生すること。「離」は守と破に創意を加え,自分独自のものを追求し確立する段階ですと説明していた。伝統工芸の職人として基本を習熟しそれを破って応用する,そして最終段階として,型を離れる創造の世界へ進みたいと決意を話していた。

 

どんな道であれ,それを極めていくためには,段階を踏んでいかなければならない。段階を一歩ずつ着実に踏むことが「守破離」という考え方なんです。「守破離」はプロになるための基本的な心得としていると扇子つくりに対する熱い思いを語ってくれた。

 

扇子と言えば,あおいで風を送る使い方や和装の時の必需品,芸事やお茶の世界で使われる扇子しか思いつかないが,それぞれの分野で意味や形式が違うことも番組スタッフとの会話の中に出てきた。和の作法に欠かせない扇子の役割についての話は,日本らしい奥深さを感じる話だった。

 

扇子は,向かい合う相手と自分との間に「結界」をはるもので,結界とは仏教用語であり聖域と俗世を分ける「境界線」を意味したそうだ。扇子を前に置くことで相手を高め,自分は「へりくだる」という意味に転じた。たとえば、目上の人の前で扇子をおへそのあたりに さりげなく持つことで結界を表すことが出来るそうだ。

 

【扇子の歴史・逆輸入】

あおいで風を送り涼をとるための物,扇子が誕生した頃大きさは30㎝ほどあり,すべて木で作られたものだった。その後、竹と紙を用いて夏用の扇子が作られると暑さをしのぐために使われるようになり 日本に扇風機が普及しはじめるまで,扇子は庶民の必需品だった。平安時代の初期,木簡(昔のメモ帳)を持ち歩くために使われたのが始まりで,檜扇(ひおう)と呼ばれ,片端を綴じた形で当時男性が使っていたものが次第に檜扇に絵が描かれ,女性が装飾品として持つようになり,のちに現在の扇子の原型が出来て,鎌倉時代に中国に渡り両面貼りになった扇子は,室町時代に逆輸入され普及した。鎌倉時代 の頃,庶民が使えるようになった。江戸時代には庶民の必需品になり,やがて日本の重要な産業の一部に発展した。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫