優しい心を育むカトリック教育

2017/08/11

読書

 

2017年8月11日 

 

初めて本を読んだのはいつだっただろうか。

 

gakuintyo-20170808

 

今,読書に没頭する時間は,人生の大きな糧になると確信して,私は若者たちに読書を進めている。読書した事がすぐに役立つこともあれば,数十年も経ってから役に立つこともある。学生時代,読まざるを得ない状態で義務のようにして読まされた思想書や哲学書の類が、私の現在の仕事の指針や決定判断に役立っている。

 

自身の経験から,賢明の子どもたちにはたくさんの本と出合って欲しいと思っている。本を読んで欲しい。本の種類は何でもいいのだ。雑誌から始めてもいいし,どの領域からでもいいから,活字に強くなっていく事を願っている。現在,便利であると認識しているネットの情報だけでは,私は足りていないと思う。本を読み進めていけば,著者の心情や思想を汲み取ったり,行間を読めるようになったりする。そうすれば本の内容が面白く楽しくなってきて,読書が趣味の領域に入ってくるだろう。趣味になってくれば奥深さが増し,ますます書物を読める人になる。私は恩師に会うたび,「本を読め,本を読め」と言われ続けてきた。そして先輩に「これを読まなきゃ哲学はできない。」と入学早々に勧められたのが吉本隆明の『自立の思想的拠点』だった。

 

「どういう政治イデオロギーを有し、どういう政治的潮流に属し、あるいは政治的無関心であろうとも、そんなことに関わりなく、否応なしに現実の諸問題というものが自分のところに覆いかぶさってくるという位相を、避けて欲しくないと思います。そういうことを避けることができない者こそ、本来の知識人である、それが知識人の思想的課題であると僕はいいたいわけです。」

 

彼の講演会では聞いたこともない単語が,次々と聴こえてきた。しかし私の中で,言葉の壁が立ちはだかっていることを否応なしに理解させられた。必要に迫られて難解な本を,辞書を片手に読んでいた経験もあるが,自分が恩師と同じ年頃になり,やっと読書の意味と大切さがわかってきた。それは読書が,人としての内面的成長をもたらすものだという確信だ。人としての温かさ,深さ,包容力,判断力を培うのが読書なのだ。人との出会いから学ぶことも当然尊いものだが,自分自身が自身のスピードと自身の理解力で学ぶ事が出来るのは読書だと確信でき,読み終えた時には必ず成長しているという事もわかった。

 

生徒の皆さん,児童の皆さん,そして幼稚園の皆さん,本を読みましょう。夏休み,まず一冊読み終える事から始め,何冊楽しく読めるか挑戦して欲しい。

 

中学生の皆さん・高校生の皆さんは,大阪の中之島の図書館に一度行ってみてください。館内に入ると,いかにたくさんの人が,また自分と同じ年代の人たちが,本を活用し勉強しているかに接する事ができます。これは自分の読書量や,学習の姿勢を見直す大変良い機会となり,図書館を利用している人を見るだけでも,良い刺激になります。ここでは大学受験を目前に控えた高校生,論文提出に追われている大学生,国家試験のために勉強している学生や社会人,ありとあらゆる人が本と向き合っています。

 

ここにいる人たちは,なぜネットで調べずに本で調べたり,紙に印刷された本を読んだりするのでしょう。新し物好きな私は,かつてネット配信された本や話をタブレットで読んでいました。しかし,どうもしっくりこない。読んだ量を手触りで感じられない。あと何ページという後半への楽しみも感じない。ページが表記された数字だけでは,量は体感できない。読み返すとき,この辺りだったという感覚で,後戻りできない。結局昔人間でいいやと結論付け,紙の本に戻った。そして,本はやっぱりいいもんだ。読んだ量が見えるし,それが手に感触として伝わってくる。確かこの辺だったと、感覚でページ数をつかんで,後戻りできる。こうやって本を読んでいると,作者の意図が「行」と「行」の間に見えてきた。

 

私が高校生の時読んだのが,アレクサンドル・ソルジェニーツィンの代表作のひとつ『ガン病棟』だ。この本は,政治批判書としてソ連国内の雑誌への掲載は拒絶され,海外で出版された。あまり進んで手に取る気になれないタイトルであったが,発禁扱いという事が私の読んでみようとする気持ちへの,引き金だったように記憶している。楽しい内容でもなかったが,高校生ながら人生を考えることが出来た本であった。

 

アレクサンドル・イサーエヴィチ・ソルジェニーツィン (Alexandr Isaevich Solzhenitsyn

誕 生: 1918 12 11日 · スタヴロポリ地方

帰 天: 2008 8   3日 · モスクワ州

  : 収容所群島 · イワン・デニーソヴィチの一日

受賞歴: ノーベル文学賞 (1970) · テンプルトン賞 (1983)

ノイシュタット国際文学賞 (1970)

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫