優しい心を育むカトリック教育

2017/09/13

あなたの手

高校生の研修旅行最終日は,帰国の為に第一陣が早朝4時45分にホテルを出発して,シカゴ経由とデンバー経由で日本へ向かう。第二陣は6時25分発のシカゴ経由で,そして第三陣は8時発のワシントン経由と,時差でホテルを出発する。順調に進む時差の出発だが,第三陣の出発準備が始まったころ,他の団体が同時刻にホテルを出発するから,ロビーでの集合を遠慮してほしいとフロントからの要請が入る。要請にこたえて,バス乗車内での点呼に切り替えてから,いったいどんな団体なのかとロビーで見ていると,それは高齢の団体の旅行者でNiagara滝の観光に来られたそうだ。賢明の生徒たちの制服の着こなしや礼儀正しさを見て「wonderful」「goodboy」と声をかけて下さるのだが,ホテル前に陣取ったその団体の方々はバスへの乗車が遅々として進まない。大半の方が杖か歩行器を利用しておられるので,動きがとてもゆっくりなのだ。移動に時間がかかるのは致し方がないが,生徒のバスの乗車コースと完全に交差してしまっている。仕方がないので,生徒がこの道を使うから,道を譲ってほしいと頼む。「もちろん,いいよ。」とその老人団体が,ゆっくりゆっくり生徒が通れるようにと,ホテルの壁際に通り道を譲って下さった。

 

全てがゆっくりと進むその団体は,こちらの第三陣の出発前から,数人ずつがロビーに集まってこられる。みんながほほ笑んで「Goodmorning」と,ホテルのスタッフにも私たちにも挨拶して下さる。その方たちの雰囲気は何とも穏やかだ。そして生徒を見かけると,一人ひとりに「Goodboy」と声をかけても下さる。

 

その団体の方々のバス乗車の様子を見ていると,胸が熱くなった。例えば歩行器を使っておられる奥様が,バスのステップに足をかけられると,ご主人の右手は自身を支える杖をしっかり地面につき,左手で奥様をescortなさる。じっと見ていると,同じような状態の老夫婦が同じように,右手は自身の為に,そして左手は妻の為に差し伸べられる。

 

バスに乗るにもひと苦労する夫婦たちが互いに互いを支え,微笑みを携えて旅をしておられる。こういう姿が,愛を実践している姿なのではないだろうか。愛する行為とは,大げさなものではないと思う。誰しもができることだから,イエスは「愛しなさい」と命じられたのだろう。

 

第三陣が出発するとき,生徒たちより早く集まっておられたそのグループの方々は,まだ乗車が終わっていなかった。しかし私たちの出発に気が付かれると,やはり片手で自分を支えながら,片手を高く上げて私たちを見送って下さった。研修の最終日に,私自身,心が洗われたと感じられる時を過ごすことが出来た。出発の朝の慌ただしいその時に,妻の為に片手を使われる夫の姿は愛しい光景であり,私よりあなたの為に,私よりあなたが先にという愛の原点を,私は諭されたように感じた。

 

gakuintyo-20170913

 

主よ、今日一日    貧しい人や病んでいる人を助けるために

私の手をお望みでしたら  今日、私のこの手をお使いください。

主よ、今日一日   友を欲しがる人々を訪れるために

私の足をお望みでしたら  今日、私のこの足をお貸しいたします。

主よ、今日一日   優しい言葉に飢えている人々と語り合うため

私の声をお望みでしたら   今日、私のこの声をお使いください。

主よ、今日一日   人は人であるという理由だけで

どんな人でも愛するために   私の心をお望みでしたら

今日、私のこの心をお貸しいたします。

(Mother Teresa)の祈りより

 

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫