2017/10/19
哲学の小論テーマに取り上げられた難題を,ドゴール空港(Charles-de-Gaulle)でCONCORDEの機体を見たとき突然思い出した。
大学一年の時,[『誤謬』『頑迷』『頑固』『強情』の言葉をすべて用いて,人間の持つ特性について述べよ]という課題に,一週間ほど悩んだことがあった。熟語の意味すら理解できないし,当時の私は多角的に,また歴史的に,人間について考えたことなどなかったから,これは難解極まりない課題であった。今も課題を記憶しているほど,その当時は悩まされた。先輩にアドバイスを求めたノートには,下記のような走り書きのメモが残っている。
『強情』というのは意地を張って,考えをなかなか変えないこと。
『頑迷』というのは頑なで,ものの道理がわからない,理解しようとしない,柔軟性がないこと。
『頑固』なのはいいが,『強情で頑迷』なのはダメだ。
謎が謎を呼ぶ,禅問答にも似た先輩の説明であったので,さらに混乱したことを記憶している。しかも誤謬のメモがない。なぜないのか記憶にはないが,きっと誤謬の理解にまで到達しなかったのだろう。REPORTに何を書いたのか等,記憶は全くない。唯々メモを取るだけで,ますます混迷に落ちていったことを,鮮明に記憶している。
コンコルド機(パリとニューヨークを約3時間で飛んだ音速の旅客機)が屋外に展示されているのを見てレポートの課題を思い出すのと同時に『強情』『頑迷』『頑固』『誤謬』の言葉がつながった。
一時,話題になった,有名な『コンコルドの誤謬(ごびゅう)』だ。超音速旅客機『コンコルド』が莫大な資金をかけながらも,そのことが逆に足枷となり,商業運航撤退を決断するまでに,長い時間がかかってしまったことから生まれた言葉だ。音速を超えて飛ぶために,極限まで機体はスマートになった。その代わり,乗客人数は極端に少なくしなければならなかった。膨大な開発費は,この乗客数では元を取り戻せない。誰が見ても赤字が続くことになるが,運航停止に至るまで,開発の苦労と速さへの夢の実現と言う野望に似た希望が,決断を遅らせたのではないだろうか。1996年に運行を開始して,停止したのは2003年だから,この決定までに,7年間という時間がかかったことになる。
正しいと思うことを貫いていくと,その間に逆の反対となる事象が起こり,正しいとして始めたことが何らかの欠如によって間違いになっていく結果になる。今となっては,コンコルド機の開発自体が,間違っていると気が付けば済んだことだと,言える。しかし当時は最先端の技術を終結した,未来を開拓する超音速旅客機であった。高度5万5,000から6万フィートという,通常の旅客機の飛行高度の2倍もの高度を,マッハ2.0で飛行した。これは技術の進歩を,人類に示してくれた。しかし,今はこの航空機も,展示物になってしまっている。
生徒に説明してほしいといわれたら,まさに詭弁の答弁しかできない誤謬と言う言葉。若者たちには誤謬を犯してほしくない。
辞書によると
一見正しくみえるが誤っている推理。推理の形式に違背したり,用いる言語の意義が曖昧(あいまい)
で,推理の前提が不正確であることから生ずる。詭弁(きべん)。論過。虚偽。
漢字の成り立ち
「誤」は「誤る(あやまる)」という意味 呉の意味は「神に奉げものをして祈り舞う」普通ではない精神状
態を表わす漢字。そのような状態での言葉は正常じゃないので、言偏を付けて「あやまる」という意味・
漢字になった。
「謬」も「あやまる」という意味。謬の右側は飛ぶ鳥を表わす漢字ですが、実際は「繆」の省略系となり,
「糸がもつれる」という意味となる。
よって、「言葉がもつれる」となり、あやまるという意味になる。
学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫