優しい心を育むカトリック教育

2017/11/30

By around the end of November

学院の木立の落ち葉が去りゆき,冬の季節が到来した。

 

ちょうど一年前の11月にブログを書き始めて,はや一年が経った。自分の伝えたいこと,願っていること等を,文字を使って書き表すことは案外難しく,時には言葉足らずになったり文が長すぎたりしてしまうことがあり,自分の中での新たな気付きもあった。毎回悩みながら書き進み,書き直しを繰り返しながら,最後にはある種の決断でブログを立ち上げるという形で積み重ねて来た。気が付いたときに書き留めるので,定期的にブログを書くことは出来なかったが,一年間これを続けられたのは,たくさんの人からの励ましがあったからだ。最初のブログの頃,京都の風情について触れて書き始めたが,あれから一年,この間にまた古都の風情が大きく変わりつつある。

 

昨今の観光ブームと,東京オリンピックの集客を目的としているのだろうが,古い民家が改築され民泊施設に様変わりし,其処此処の空き地には建築用地の看板が立ち,それには客室数の表示がされている。こんな所もホテルになるのかと驚くほど,宿泊施設の建築ラッシュが始まっている。使えるだけの面積をフルに利用し,高さ制限の限界まで高層化させたホテルが,京都市内にも次々と完成しつつある。古都らしい風情ある建築物って,経済効果が悪いのだろうか。京都も東京も,また大都市と呼ばれている所は特徴や変化がなくなり,日本の都会は平均化していくのだろうか。

 

 三十年程前,通勤途中に毎日,阿部野橋の近鉄百貨店(ハルカスとなる前)を目にしていた。都会に毅然として建つ姿や,外観の白塗りのフェンスにちょっと豪華さを感じ,いいなぁーと思いつつ,いつも眺めていた。また子どもの時からしばしば訪れたことがある樫原神宮の駅舎は,年を取って眺めてみると,自然との一体感と土地柄を感じるものである。ガラス張りの近代技術の粋を集めた建築物は,人類の英知を感じさせてくれるが,自然の中に入り込んで目立たぬようにたたずみ,それでいて自然を引き立てている建築物には何かしらの趣がある。このような趣ある建築物に,最近触れる機会があった。そこは恩人の葬儀の時に訪れた,宝塚カトリック教会であるが,住宅街の中にたたずみながら,近代的外観は街の雰囲気に合ったらしさを漂わせていた。この教会は,建築家村野藤吾先生の遺作と知らされ調べてみると,ルーテル学院大学本館(東京都三鷹市)・シトー会西宮の聖母修道院(兵庫県西宮市)・日本基督教団南大阪教会塔屋 (大阪府大阪市)・都ホテル大阪(大阪市天王寺区)・京都宝ヶ池プリンスホテル(京都市左京区)・箱根プリンスホテル(神奈川県)・宝塚市庁舎(兵庫県宝塚市)・八ヶ岳美術館(長野県原村)・志摩観光ホテル(三重県志摩市)・世界平和記念聖堂(広島市中区)・都ホテル新館(京都市東山区)等たくさんあったが,私が知っている建築物ばかりだった。この他にも,先生の手掛けられた建築物は,まだまだたくさんある。

 

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箱根プリンスホテルは,周りの自然に溶け込みながら自然を引き立てていて,ホテル周辺の森の木々の高さとホテルの高さが一致しているように見える。広島の世界平和記念聖堂には,多くの人が訪れたことがあるだろう。かつて恩師が主任司祭をしておられた頃に訪問した際,聖堂内に満ち溢れている明るさと平和を私は感じた。村野藤吾先生はすでに他界なさっておられるが,先生の意思を汲んで,建築される場所と一体となりつつ,他者を引き立てる建物が古都にも建築されることを願っている。

 

村野藤吾

1891年    佐賀県生まれ

1929年    村野建築事務所設立 ※1949年村野・森建築事務所へ改組

1953年    日本建築学会賞作品賞受賞 (丸栄百貨店)

1955年    日本建築学会賞作品賞受賞 (世界平和記念聖堂)

1968年    藍綬褒章

1964年    日本建築学会賞作品賞受賞 (日本生命日比谷ビル)

1967年    文化勲章

1972年    日本建築学会建築大賞受賞 (箱根樹木園休息所)

1984年    1126日 永眠

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫