優しい心を育むカトリック教育

2018/05/28

ひよこ

小学校三年生の時,学校から帰ると縁側にミカン箱があり,その中に二羽のヒヨコが入っていた。母が買ってくれたヒヨコに,驚きと嬉しさが爆発した思い出がある。夏祭りのヒヨコ釣りや,商店街の出店で売っているヒヨコを飼いたいとねだっても,「すぐに死んでしまうからだめ」と言い含められて渋々諦めていたので,突然のヒヨコの登場に驚き,嬉しさのあまり,毎日学校が終わると友達と遊ばず,一目散にヒヨコの為に帰宅していた。大根の葉っぱをもらいに市場へ行き,ひな鳥の餌を買いに商店街に通った思い出が,「まど みちお」さんの詩を久しぶりに読んで,ヒヨコを初めて飼った時の事が懐かしく蘇った。

 

 

「ひよこ」      作:まど みちお

ひよこたちが なく  めいめい じぶんのなまえを いって

じぶんが ここに いることを  おかあさんが わすれないように

ピヨピヨピヨ ピヨはここよ   キヨキヨキヨ キヨはここよ

ミヨミヨミヨ ミヨはここよ   チヨチヨチヨ チヨはここよ

みんな なく  みんな なく

おかあさんの むこうの  もっととおくへ きこえるように

せかいじゅうに きこえるように

せかいじゅうを みていらっしゃる  かみさまに きこえるように

 

私が飼っていたヒヨコたちは,本当によく鳴いていた。泣いているようにも,感じられる時があった。ヒヨコたちは,母をもとめて鳴くのだろうか。「ヒヨコ」は「ひよこ」「雛」(未熟)でしかないから,鳴くのは,自己主張の表れなのだろうか。生まれ持った自己確立の力の為だろうか。きっと,各自の与えられた場所で嬉々として生きるために,生きる知恵を求めこの知恵を獲得しようと,かわいい声をあげて,一生懸命に鳴いているのだろう。人間社会では,自己主張だけでは共存した生活,共生を営むことは出来ない。意欲的に生きる事と,社会を構成し生活していく力量を高める為に,一生懸命にならなければならない。人間のひよこたちは,自分の居場所を見出し,その場所で嬉々として,充実した生活や満ちた生活環境の中で,更なるIDENTITYを求め,屈託ない呼び声をあげているのではないだろうか。ひよこたちのこの屈託ない呼び声を,私たち教師は聴きとらなければならない。多くのひよこたちの声を聞き取り,導いていくのが私たちの仕事なのだろうと思う。

 

「途方もなく大きなプライドを、とんでもないケチな人間が持っている。」

「人間は言うことが無くなると、必ず悪口を言う。」

One always speaks badly when one has nothing to say.

ヴォルテール  Voltaire

誕生 1694年11月21日

帰天 1778年5月30日

 

本名フランソワ=マリー・アルエ(François-Marie Arouet)フランスの哲学者,文学者,歴史家。イギリスの哲学者であるジョン・ロックなどとともに啓蒙主義を代表する人物とされる。また,ドゥニ・ディドロやジャン・ル・ロン・ダランベールなどとともに百科全書派の学者の一人として活躍した。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫