優しい心を育むカトリック教育

2018/08/14

うつせみ

今年の夏は,蝉がなかなか鳴き始めなかった。地中からやっと地上に顔を出しても,この暑さで成虫にならないまま死んでいる姿を,よく見かける。猛暑の中でやっと孵化した蝉の中には,鳴かずに葉の陰に身をひそめてしまっている輩もいる。蝉時雨と言われる,耳がおかしくなるほど鳴きたてる蝉の声は,今年はどうも静かになってしまっていて,その上鳴き声の合間には,休み時間があるように感じる。

 

そして毎年人を悩ます蚊さえ,今年の暑さには,なりを潜めている。体温以上の暑さの日々が続けば,人間だけではなく,虫も暑さに負けてしまっているのではないだろうか。猛暑の影響か,台風12号は,とんでもないコースをたどった。台風のコースが,中学の受験問題に出題された時代もあったが,今年の一例から考えて,「台風のコースはどれですか」と問うこと自体が,NONSENSEになった。

 

灼熱の太陽にさらされ,学校の桜の木も力をなくしている。そんな桜の木に,例年ならいくつも見つけられたセミの抜け殻を,この間久しぶりに見つけた。セミも頑張って,暑さに耐えているとわかってほっとした。セミは毎年,梅雨が明けた頃から盛んに鳴きだし,季節が進み,そこここで蝉しぐれの中に身を置く状態になってくると,夏本番を感じたものだ。今年,地上に出る予定だったセミの中には,少し涼しくなった秋ごろに顔を出すのもいるのだろうか。夏だけではなく,秋になってもセミが鳴いているとなると,セミは夏の象徴ではなくなってしまって,秋の虫と言われるようになるのだろうか。

 

 

「セミの一生」と言う題の,国語の教材文があった。

1セミは.木の幹に親の蝉が卵を産み付ける。

2.翌年の梅雨の頃に生まれて,木の根を伝って土の中に入る。

3.木の根から樹液を吸う。幼虫は木の根に口吻を刺し,道管という木の根の管から樹液を吸う。木の根の樹液は、栄養分が

薄いため幼虫が成長する速度は非常に遅くなる。種類によって大きく時間が異なるが,セミは3年~17年土の中で過ご

すことになる。

4.成虫になる年の初夏に地上に出てきて,成虫になる。成虫になる年を迎えると,夕方頃に地上に出てきて木の幹などで羽

化する。成虫になると,活発に活動するため,幼虫の時よりも濃くて栄養が豊富な木の幹の樹液を吸う。約一ヶ月ほど

を地上で暮らす。

5.成虫の間にパートナーを見つけると成虫の間はオスは大きな声で鳴き続けて,メスにアピールする。鳴くのはオスだけで,

メスは鳴かない。メスはオスの鳴き声から,自分のパートナーにふさわしい相手を見つける。

6.子孫を残して一生を終える。

 

根の樹液は薄いから,成長に時間がかかる。その為にセミは地下にいる時間が長いという,自然のメカニズムの偉大さを感じられる一生だが,現在私たちを取り巻く自然環境そのものが,異例になってしまっているとも言える。

 

日本は,昨今の気温から温帯気候に属していると言えるのだろうか。地球を守ると言う課題をもっと真摯に受け止め,各自が温暖化対策に具体的に取り組まなければ,来年の夏はいったい,気温は何℃を記録するのだろう。2020年の東京OLYMPIC PARALYMPICSは,この猛暑の中で,開催できるのだろうか。開催の年は,どんな暑さになるのだろうか。果たして猛暑のOLYMPICとなっても,開催していいのだろうか。選手のCONDITIONは,どうなるのだろう。今からでも,過去の実績を根拠に1010日開催と変更する,空蝉としての勇気を持つ事も必要ではないだろうかと思う今年の猛暑である。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫