優しい心を育むカトリック教育

2018/08/24

忘れてはならない事

 

「6+9=15」この式は,8月6日の広島と,8月9日の長崎の原爆投下と,日本の終戦の8月15日を表すものとして,平和運動の中に位置づいている。「6+9=15」は,国際的に共通認識されていると言ってもよいだろう。教壇に立っていたころ,覚えやすさの点から,広島・長崎への原爆投下日,そして終戦記念日の大切な日を,このように覚えなさいと教えていたと記憶している。今も,年代や事件名が日本史のテストの主たる出題傾向となっているが,2020年を境にこれが変わろうとしている。出題方法が「なぜ戦争を始めたと,あなたは考えていますか」と,自分の考えを述べる形の質問をされるようになれば,今の生徒たちは何と答えるのだろう。自分の意見を構築していく習慣は,世界と協調していく上でも大切な能力となる。ただ現在のひたすら記憶力を問われていたテスト形式から,2020年には,考えを問われる新しい出題形式となる事は,はっきりしている。私自身が記憶を問われる世代に育ち,大学で初めて自論を発表することが求められたとき,非常に戸惑った事を記憶している。

 

終戦記念日に,生徒の皆さんに考えて欲しい事がある,持論を持って欲しい事がある。それは,アメリカに移民していた日本人は,戦争中どのような生活を強いられていたのだろうかという事である。日本にいる外国人は,敵性と言う言葉のもとに閉じ込められ,迫害にもあっていた。では,アメリカではどうだったのだろうか。日本から移民した人々は,日本と同じように,敵性と言う言葉のもとに迫害されていたのだろうか。

 

先日,強制収容所に収容されていた日系の老人が,取材に答えていた。その折の事について今まで口を閉ざしてきたのは,家族や親せきが迫害されると困るからという,考えからだそうだ。終戦から73年経った今,話す事にしたと言う老人は,矍鑠とした姿勢で「私はノー・ノーだったからツール・レイク収容所に送られた」とおっしゃった。

 

強制収容所で,「出所許可願」という名のアンケートによる「忠誠登録」が実施され,3週間以内にどちらかを選ばないと,逮捕され私財は全て没収されたと言う。この脅迫感の中で「ノー・ノー」を選んだ老人の目に,光る物を見た。忘れてはいけない「6915」,戦争を知らない私たちだからこそ,しっかり語り継がなければならないのではないだろうか。人間の本性は憎しみだろうか,優しさだろうか。私たちは,どちらの本性に添った生き方をすべきなのだろう。

 

【忠誠登録】(移民した日本人対象に実施された調査)

質問27 あなたは米軍兵士として従軍し、命令されればどこの任地へでも赴く意思がありますか?

(女性の場合、看護部隊に志願する意思がありますか?) YES   NO

 

質問28 あなたはアメリカ合衆国に無条件の忠誠を誓い、いかなる外国もしくは国内からの攻撃に対し

てもこの国を忠実に守りますか? 

また、日本国天皇やその他の外国政府・権力・組織への忠誠や恭順について、それがどんな形

のものであれ否認しますか?              YES   NO

 

※「No-No」の中にも天皇崇拝者、強制収容に対する怒りから質問に回答した者、日本が戦争に勝つと信じていた者、慣れてしまうと案外快適な収容所を追い出される事を恐れた者、様々だった。

※少数ながら「No-Yes」と答えた者もいたが、その場合も「No-No」と同じ扱いを受けることとなった。

※両方の質問に「Yes」と答えたのは調査対象者の84%となった。「No」と答えた「No-No」は不忠誠と見なされツール・レイク収容所に送られた。

故郷を去り,一大決意をしてアメリカ人となった日本人に,あなたは疑わしいアメリカ人で本当のアメリカ人でないと当時の社会情勢は追い打ちをかけたのだ。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫