優しい心を育むカトリック教育

2019/08/12

粽(ちまき)

 

祇園祭の名物のひとつに「粽(ちまき)」がある。ちまきと聞いて,端午の節句の食べ物の粽を,こんな暑い夏に「何故?」と不思議だった。各家庭でも粽を玄関に飾っておられるのを見て,最初は腐ったらどうするのかと疑問に思ったものだ。「ちまき」と聞くと,普通食べ物を思い浮かべるが,祇園祭の「ちまき」は食べ物ではなく,笹の葉で作られた厄病・災難除けのお守りである。これを聞いて,私の心配事は解消した。何事も様々な理由と,伝統を知らないといけないなぁとつくづく感じたひとつであった。毎年,祇園祭のときにだけ,各山鉾のお会所や八坂神社で販売され,京都では,多くの町衆がこれを買い求め,一年間玄関先に飾っているのが,ごく普通の光景となっている。

 

宗教に関わらず,町衆の習わしとなっているところが,京都人の懐の深さと感じられる。この事は,宗教と文化を独特の理解の仕方で,生活の中に取り入れている証しではないだろうか。ひょっとするとGLOBALの思想は,京都人に学ぶほうがいいのかもしれない。

 

【昔,蘇民将来という男の家に,旅人に身をやつした牛頭天王が訪ねてきて,一夜の宿を求めました。蘇民は貧乏でしたが,それでも手厚くもてなします。牛頭天王はその心遣いに大変喜んで,そのお礼に「今後お前の子孫は,末代まで私が護ってやろう。目印に,腰に茅の輪をつけていなさい」と言い残して去っていきました。 そのお陰で後に疫病が流行った際も,蘇民の一族は生き残り,繁栄したということです。】

 

このときの護符になった茅の輪は,「茅」を束ねて「巻」いたものだったのが,これが「茅巻(ちまき)」と呼ばれるようになり,同じ発音の「粽(ちまき)」と音を担いで,現在のような束状の粽が,厄除けのお守りとして作られるようになったそうだ。また,粽には「蘇民将来子孫也」という護符がつけられている。これは「私は蘇民将来の子孫です。病気や災いから護って下さい。」という意味が込められている。もともと疫病を鎮める祭だった祇園祭のルーツが,「粽」にあるのだと知った。

 

粽(ちまき)は各山鉾の会所で販売されるが,それぞれに由来がある。
役行者山:疫病除け・交通安全 ・安産  鈴鹿山:盗難除け・安産  八幡山:夜泣き封じ・子供の健康・夫婦円満  黒主山:泥棒・悪事除け  浄妙山:勝運向上  鯉山:立身出世・開運・家内安全 霰天神山:雷除け、火災除け  占出山:安産  郭巨山:金運向上  孟宗山:親孝行 油天神山:学問成就  木賊山:迷子除け・再会  船鉾:安産  白楽天山:学問成就、招福除災 太子山:学問成就・知恵を授かる、身代わり  保昌山:縁結び  菊水鉾:不老長寿・商売繁盛 岩戸山:開運  山伏山:雷除け  芦刈山:縁結び・夫婦円満  綾傘鉾:安産・縁結び 四条傘鉾:招福厄除  大船鉾:安産  布袋山:子孫繁栄・壽福増長  等々

 

この酷暑を乗り切る事を願った「ちまき」はなかったが,この暑さが続けば,将来自然災害の災いから救って下さる事を願った「チマキ」が,登場するのではないだろうか。こんな臨機応変さも,京都の良さかもしれないと思う。

 

葉月に入り,天気予報図では,日本全国真っ赤な今日この頃,高温除けの,また熱中症除けのちまきが欲しいとついつい思ってしまう,今年の夏である。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫