優しい心を育むカトリック教育

2019/09/02

しあわせ

「お帽子かぶらないとダメよ。」 門の方から,可愛い声が聞こえてくる。
声の主は誰かと思って,そっと覗いてみると,近所の幸ちゃんが,ゴールデンレトリバーに話しかけている。

 

「お外へ出る時は,お帽子かぶらないとダメ!」と,ちょっとお姉さんらしい口調で,ワンコを説得している。ワンコはワンコで,お座りの姿勢でおとなしくしているが,座っていても幸ちゃんと目線は,ほぼ同じ高さである。物おじせずにワンコに話しかけ,帽子をかぶるように説得している幸ちゃんの様子は,灼熱の暑さの中で心を癒してくれる,ホッとする光景だ。

 

「お帽子ないの?」 幸ちゃんはそう言うと,自分の帽子を取って「私の貸したげる。」と,ワンコの頭にのせた。どうなるのかなと心配して見ていると,ワンコは暫くかぶったままにしていたが,ちょっと遠慮気味に首を振って,帽子を落とした。その様子を見ていた幸ちゃんは「お帽子嫌い?」と尋ねながら,振り落とされた帽子を拾い,小さな手でワンコの頭を撫でて,「お帽子かぶらないとダメよ。」と言い残して,お母さんと出かけて行った。幸ちゃんの後姿を,少し首をうなだれて見送っているワンコの様子は,自分にかけられた幸ちゃんの言葉を理解していたようにも見えたし,帽子を振り落した事を詫びているようにも見えた。

 

自分より大きな犬に物おじせずに話しかけ,帽子をかぶらないとダメと諭すこの幼子は,この猛暑の夏休みの日々,きっとお母さんに毎日毎日,帽子をかぶって出かけるようにと言われているのだろう。だから毎日のように通る道にある家のワンコが,いつも帽子をかぶらずに外に出ているのを見た幸ちゃんは,自分が言われている事を何とかして,犬にも伝えようと思い,自分の帽子を貸してくれたのだろう。

 

教え育てるというのは,こういう事なのではないだろうか。言葉は伝わらないけれど,自分の気持ちを賢明に伝えようとする。分からせようとするのではなく,自分の思いを何とかして伝える事が,教育の心ではないかと気づかされた光景であった。

 

 

三つの幸せの言葉を思い出した。
幸ちゃんは,お母さんとの会話の中で,自然に幸せを理解していたのではないだろうか。

 

一つ目の幸せは、「 してもらう幸せ 」周りの方々にも励ましていただいたとき

私たちは元気になります。

 

二つ目の幸せは、「 自分でできる幸せ 」自分が好きなことができるようになると

とても嬉しくなります。

 

三つ目の幸せは、「 人のお役に立つ幸せ 」人の役に立つ何かをして差し上げる

相手の喜びを自分の幸せとする。

 

幸ちゃんは,「 してもらう幸せ 」から「 自分で出来る幸せ 」へと進み,炎天下,外に出ていたワンコを気遣って,帽子をかぶせてあげたのだろう。そして,「 人のお役に立つ幸せ 」を,いつか自然に感じる事が出来るようになったのだろう。

 

私たちも「人のお役に立つ幸せ」を味わえる人生を,送りたいものだ。

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫