優しい心を育むカトリック教育

2020/01/15

絵本  (3の1)

子どもの頃,読んでもらった絵本を,覚えていますか。

 

大人になった今,それぞれ思い出の絵本が数冊は心の中にあるのではないだろうか。子どもが読むものと思われがちな絵本だが,最近は大人が楽しめるものも多く出版されていて,ちょっとしたブームになっている。四条界隈にある本屋をのぞけば,500冊以上の絵本コーナーに出くわす。

 

子ども向け絵本のはじまりには諸説あるが,17世紀に,コメニウスという聖職者によって出版された『世界図絵』が,子ども向け絵本の起源であると言われている。『世界図絵』は,勉強が苦痛だと感じている勉強が苦手な子どもたちのために造られた,挿絵入りの教科書だったらしい。

 

日本でも,同じくらいの時期に,『訓蒙図彙(きんもうずい)』という,絵入りの百科事典が造られているが,「子どものために」と,はっきり意識して造られたものではなかったと,記録書に記載されている。

 

子ども向けのものに限定せず,絵本の歴史を遡ってみると,日本には『奈良絵本』というものがある。この『奈良絵本』は,室町時代後期から江戸時代前期頃までに造られていた絵入りの写本で,内容は浦島太郎や一寸法師など,現代の子ども向け絵本にもよく見る内容である。

 

絵本の歴史はさておき,自身の絵本との出会いをふり返ってみたい。確か幼稚園の頃,母が病にふせっていたChristmasの時期だったと思うが,線路と電気で動くドイツ製の精巧にできた電車の模型と絵本をもらった。このプレゼントは,母が病に臥せっている幼い子を不憫に思ったドイツ人のシスターが,届けて下さった品だと記憶している。六畳の間いっぱいに線路を敷き詰め,毎日毎日電車を走らせていた光景は,今でも心の中に嬉しかった思い出としてしっかりとあるが,それ以上に「ドキドキ! ワクワク!」したのが,頂いた『しかけ絵本』だった。ペーシを開くと,立体の動物が浮かび上がってくる。初めての仕掛け絵本だったので,どうなっているのかと不思議でたまらなく,最後に絵本をバラバラにした記憶がある。動物が出て来る事しか印象に残っていないが,とにかく不思議な本だった。一緒に頂いた高価な電車より,衝撃だった記憶が今もはっきり残っている。このようなしかけ絵本の起源は,1300年頃だと言われている。年の離れた姉が,円盤をくるくると回す事で,星の動きを視覚的に表せるようになっている理科の教材を持ち帰って来た時も,それを自分の持ち物のように毎日毎日手元でくるくる回して,なぜ天体が変化するのか不思議に思い,最後は分解してしまって,姉と大喧嘩になった事も覚えている。とにかく天体が,平面上で変わる事,それが不思議だった。今思えば,単に二重構造で回転できるように,軸に「はとめ」を施しただけなのだが,回すと天体が変わる事が,不思議で不思議で仕方なかった。

 

 

今,スマートフォンやタブレットで見る動画は,いろいろな場面で,驚きと感動をもたらしているのだろうか。しかけ絵本と同じように,感動と驚き,そして探究心を育てるものなのだろうか。単に受け取っていればいい動画は,鮮烈で,どれもとっても美しい動画と美しい音楽を配信しているが,これは子どもたちになぜだろうとか,不思議だなぁと思う探究心を育て,一生記憶に残る物なのだろうか。

 

≪小児科医の心配≫

 最近,定期検診に来院する母子の待合室は,静寂に包まれているそうだ。かつては,母親同士の悩みや相談,また日常の子どもの様子の情報交換で話が盛り上がり,まるで女子高や女子大の同窓会のようだったそうだが,最近は静まり返っているとの事だ。この静けさが,担当医の心配事になっている。母親たちは授乳しながら,スマホの虜になり,子どもを見つめてはいないとの事だ。幼子に語りかける,また微笑みかける母親の姿が無くなってきている様子を目の当たりにして,これでは子どもの心が育っていかないと憂いている。心は,母親のまなざし,子どもへの語りかけによって育つ,それが基本だと彼は確信している。今の赤ちゃんは,機械に育てられているようだと,彼の心配は深まっていく。

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫