優しい心を育むカトリック教育

2020/01/24

読み聞かせ (絵本3の2)

最後のセンター試験が,終わった。次年度から大学入試制度が変わり,自己表現能力や協調性が問われるような出題になる。EQEmotional Intelligence Quotient)は,社会生活を営む以上,必要不可欠な事であったが,教科の点数のみが重視される風潮のなか,来年度からの試験内容の変化は,失ってしまったものを取り戻すための秘策かもしれない。いじめや詐欺,暴力,横領,殺人事件などが,ニュースとして毎日放送されるようになり,「殺伐とした社会に,子どもたちを巣立たせたくない。」 そう思いを巡らせていた時,柳田邦夫先生の著書に出合った。そこには,幼い頃の読み聞かせの大切さをまとめた10箇条が記されていた。

 

国語の読解の点数を気にする前に,内面の陶冶を優先すべきではないだろうか。感性が育って初めて,文脈の理解や,文章を要約する力が二次段階として育つ事は,教育現場にいた時に痛感している。読み聞かせで耳にしたその文章が好きになり,そこから自分で読み進んでみる事により,初めて文章で表現する力が育ってくる。問題集では育たない力の秘密が,読み聞かせにはある。

 

ノンフィクション作家や評論家として,多くの著作がある柳田邦夫さんは,幼少時の記憶である「はじまりの記憶」を,大切にすべきだと語っている。「はじまりの記憶」は,他人の思いが及ばないほど広くて深い人生の背景となっていて,『この記憶は豊かな人生を送るために,とても大事な要素である』と彼は力説する。何歳になっても,自分の中の「少年」「少女」を殺さないで大切にする事,人生の後半にこそ,少年時代に描いた「夢」を日常生活の中に生かす事が,人間にとって大事なものを発見できるはずだと訴えている。

 

 

≪読み聞かせの力≫ 柳田邦夫

1)言葉・言語力を発達させる。

2)感性・感情をきめ細かく分化発達させる。

3)文脈理解力を育てる。

4)読み手の感情を込めた読み方によって,子どもの心に絵本の内容が「現実体験」に等しい形で深く染

み渡って記憶される。

5)子どもが自分でコントロールできる唯一のメディアである。子どもはゆっくりと絵の細かいところまで楽しんだり,前のペーシに戻ったりして,深く記憶に刻んでいく。

6)親も心が穏やかになって、ガミガミ言わなくなり、優しく子どもに接するようになる。

7)言う事を聞かなかった子どもも,心が穏やかで素直になって,読み聞かせに気持ちを集中させる。

8)親が子どもと生身で触れ合うアタッチメントの機会を取り戻す時間になる。

9)絵本は大人になってから「心の故郷」になるほど,心の深いところに刻まれ,生涯の「心の財産」となる。

10)大人たちのグループで,自分たちのための絵本の「読み聞かせ」をして,心を癒すことができる。

 

『全ての物を失っても耐えられる心。また出直せばいいと思える強さ。何事にも動じない自分。

そうした内面のしなやかさをもつことが、幸せな人生を歩む上での糧になる』     柳田邦夫

 

1936(昭和11)年、栃木県鹿沼(かぬま)市生れ。

ノンフィクション作家。1960年(昭和35)、東京大学経済学部卒業。NHK 記者を経て1974年よりフリーランスとなる。

1972年 『マッハの恐怖』で第3回大宅壮一ノンフィクション賞

1979年 『ガン回廊の朝』で第1回講談社ノンフィクション賞

1995年 『犠牲(サクリファイス) わが息子の脳死11日』菊池寛賞、文藝春秋読者賞

1997年 『脳治療革命の朝』で第59回文藝春秋読者賞

2013年 『原発事故 私の最終報告書』で第74回文藝春秋読者賞

その他著書多数

 

学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫