2020/03/10
突然の休業を余儀なくされた三学期末だった。自然に秘められた力の前に,人間はいかにひ弱な存在であるかを思い知らされ,今回の突然の社会情勢を人生に置き換えてみた。医学が進み科学が進歩し,人は自分の終焉の時を正確に知った時,果たして理想とする後悔のない人生を歩むことができるのだろうか。人生の終わりの時,私たちはどんなことに対して後悔するのだろう。義務を果たせなかった事だろうか?金儲けに失敗した事だろうか?夢を追いかけなかった事だろうか?やりたい事ができなかったことだろうか?
雑誌『Emotion』に掲載された「The Ideal Road Not Taken」の筆者で,心理学者のTOM GILOVICH氏によると,私たちを最も苦しめる後悔は,「理想の自己」として生きることができなかった後悔だそうだ。私たちは自分の人生を評価するとき,なりたい自分になれたかを判断基準にしていると言うことになる。一方,「義務」の後悔は,通り過ぎてしまえばそれまでとなり重大な問題ではなくなるそうだ。人間って義務に関してこんなにも希薄な意識を持っていたのかと情けなくなる。
人は,現実の自己・理想の自己,義務を意識する自己があり,常に自己実現に向かっていると言われるが,人生を長期的に見たとき,したことよりもしなかったことに対してより大きな後悔を感じるそうだ。何らかの行動をとって失敗すると,一時的には大きな後悔を感じるが,立ち直って「人生の学び」として消化することができる力を持っている。人としての義務や仕事の義務に関して誤った行動をとっても,人はそれほど苦悩しないと言われているのは,人は軌道修正の能力を持ち軌道修正が出来るからだろう。義務に関する過ちの多くは,正しい行動で埋め合わせることでそれほど後悔の大きな要因にならないのだろう。
人生の道程で,失敗はやり直せるが,やらない後悔は軌道修正できないのではないだろうか。まして,最初から何もしていないことについては,軌道修正もできない。
『理想の自己に近づきたいなら,可能な限り行動せよ!』という格言が後悔しない人生に当てはまると言えるのだろう。夢のためなら義務や責任を放棄してよいわけではない。一度しかない人生で,やりたいと思ったことは,いつになっても私たちの心から去ることはないと言えるのだろう。年をとるにつれ,優先度や責任は変化していくが,それでも何歳になっても,なりたい自分というものが必ず心の中に存在し,思い描いたことすべてを叶えられるわけではないとしても,理想の自己に向って,何も行動しなければ理想の自己に向かって歩き始めることさえしなかったのと同じと言える。
『誰かの為に生きてこそ、人生には価値がある』
アルベルト・アインシュタイン Albert Einstein,
1879年誕生~ 1955年帰天
「相対性理論」によって知られるドイツ出身の理論物理学者。イタリア、スイスに居住、「光電効果の発見」で1921年にノーベル物理学賞を受賞。世界的な物理学者,アルベルト・アインシュタイン氏は,数々の名言を残しています。彼が発明したアイデアの多くは、その後人々の生活や考えを大きく変えました。自分だけが幸せになるための努力は虚しいこと、人が幸せになるための努力はやりがいを感じられることを説いたこの名言から,人との関わりが人生を豊かにしてくれると教えてくれています。
理想の自己とは,人生のなかで実際に目指すべきものだということを忘れないでください。理想の自己を,死が迫ったときに「ああすればよかった,こうすればよかった」と後悔する事がないように。
学校法人賢明学院 学院長 中原 道夫