優しい心を育むカトリック教育

2020/07/31

ほうき

賢明学院の幼稚園には,子どもたちが使う小さくてかわいい箒がある。塵取りとセットになっていて,片手で巧みに操る事が出来る。後片付けの時や制作の時間の後に,各自が自分の使った場所や,みんなの場所を掃いている。ティッシュでなんでもふきとったり,モップを使って始末したりする生活が,普通になっている昨今,箒と塵取りを初めて見る子もいるのだろうと感じる。かつては,どこの家でも使っていた箒や塵取り,また布巾なども子どもたちの周りから,姿を消している。

 

小学校に入学して,子どもたちは清掃活動で,両手で使う箒(長箒・座敷箒)と対面し,持ち方・掃き方など使い方を学ぶことになる。学校によってはモップを使用している所もあるが,箒の使い方から子どもたちは,多くのことを学んでいくのではないかと思う。どの向きに掃けばいいのか,埃を立てない静かな掃き方,ごみを残らずとるために塵取りと箒の巧みな使い方等々,清掃の時間は,身体能力も創意工夫力も育つ良い機会になっていると私は考えている。

 

 

「ほうきで掃除」と聞かれた方から,「えっ,未だに。」「まだ箒は,手に入るのですか。」などと尋ねられ,その質問に,逆に私の方が戸惑ってしまう。そして,こんなに便利で教育的なものを使わない方がもったいないと思ってしまう。まず,一人で教室の床や廊下を掃くのは,限られた時間では無理がある。無理があるから,お互いに協力することを学ぶ。埃が舞い上がるから,静かに一方向へ掃くことを身に付ける。しかも,人力で行うから,電気を使わない地球にやさしい活動である。その上,大きなゴミも掃く事が出来る。目で見てゴミの量が解るから,ゴミを出さないようにしようとする意識も芽生えて来る。箒での清掃は,いいことだらけと思う,掃除の時間に「舞い上がるゴミを抑えるために,茶殻を撒いたものだよ。」と教えると,「先生,ちゃがらってなんですか。」と質問された。そういえば,茶葉を使ってお茶を入れることを知らない子が増えているのだ。お茶は,スーパーとかコンビニとか,自販機で買うものだと思っているのだろう。しかしこれも,時代の変化だろうと思う。まして,「教室は,まるく掃かないのだよ。まるく掃くのは土俵だけ。」と言ってみたら,ますます子どもたちは,きょとんとした表情の顔になった。土俵では土を均すために使われているから,箒は前後左右に動かすので,児童にとっては,教室清掃のお手本にならない箒の使い方なのかもしれない。

 

何でも使い捨ててしまう生活,また何でも電化製品を使う生活となった時代に育った子どもたちは,停電が続けばどのように生活するのだろうかと,少し不安にもなる。せめて電気製品を使わなくても,清掃が出来ることを学び,その術を学んで欲しいと思う。

 

箒は,古くは実用的なお掃除道具ということよりも,神聖なものとして考えられており,箒には,箒神(ははきがみ)という産神(うぐがみ、出産に関係のある神様)が宿ると考えられていたそうだ。日本最古の書物『古事記(712年 奈良時代)』には,「玉箒」や「帚持(ははきもち)」という言葉で登場するが,本来箒は,実用的な道具としてではなく、祭祀用の道具と捉えられていたらしい。では庶民は,清掃はしていなかったのだろうかと,ふと疑問に思った。

 

七十一番職人歌合(1500年(明応9年)末ごろ)の「二十一番」に,箒売りが登場しているから,500年以上も前から,箒は使われていたことになる。そして箒売りという職業にもなっていたのだから,大半の家庭に箒があったと推測ができる。

 

学校で使っている座敷箒の主原料は,「ほうき草」と言われるイネ科の植物で,現在そのほとんどがタイ・インドネシア・中国で生産されており,日本での栽培は,極々少ないらしい。日本では,あまり姿を見ない箒草の栽培を教えてもらった。

 

【ほうき草の栽培と箒の製作】

窒素系の肥料と土をよく混ぜ合わせ,土を耕す。その後,一定の間隔で浅め(種が隠れる程度)の穴を掘り,一つの穴に1015粒種を蒔く。一定の長さになった段階で,45本になるように間引きし,種蒔きから約75日でほうき草を収穫できるまでに成長するそうだ。

一本の茎には一本のほうき草しか成長しない。それを一本一本収穫した後に,ほうき草についている種を専用の機械を使って取り除き,風通しの良い場所で約3日間天日干しする。この天日干しが不十分だと穂が硬くなって使いにくくなるそうだ。

 

乾燥後,穂の長さや状態により3段階に選別し,煮沸と染色が行われる。(煮沸をしないと,ほうき草の成長が止まらず,硬い穂になるそうだ。) 蛍光灯の光で穂が日焼けすることがあるため,日焼け防止として染色が行われる。次に,編み上げの工程となる。ほうき草を一定の量で束ね,それを複数用意し串に通して固定し,編み上げる。一本の箒を編み上げるのに,熟練者でも1日最大20本程度で箒の種類によっては11本の場合もあると聞いた。仕上げとして刺繍縫いが行われて,消費者に届く。高級品になると数万円の値が付くそうだ。製作も大変な箒であるので,しっかり丁寧に使って,文化を引き継いで欲しいと願う。

 

賢明学院小学校校長・幼稚園園長 中原道夫