優しい心を育むカトリック教育

2019/05/22

BULLETIN 5月号 「読書」

昨今の車内風景というとスマホでゲームやLINEが普通ですが,たまに本を読んでいる人を見かけます。私もその一人です。若い頃に文庫本は歳がいくと字が小さくて読めなくなると教えられましたが,おかげさまで今も文庫本が普通に読めます。7年前に賢明学院へ赴任した時,往復5時間かけて通勤しましたから,年間で140冊位の本が読めました。近年はそれに比べるとずっと減りましたが,バスの中で本が読めるようになったので毎日読書しています。電車は大丈夫だけどバスで読むと車酔いする人がいます。私もどちらかというとそんなところがありました。でも,今は全く平気です。

私は一人の作家を深く読むタイプなので,家には沢山の個人全集があります。最初に買った全集は太宰治でした。そこから同時代の新戯作派と呼ばれた坂口安吾,檀一雄,織田作之助の全集を買いました。他には中原中也,遠藤周作,倉橋由美子,魯迅,シェークスピアの全集があり,マイナーなところでは原民喜や北条民雄というほとんど知られていない作家の全集もあります。全集はありませんが,北杜夫,筒井康隆,向田邦子の作品はほぼ全て読みました。全作品には届きませんが,池波正太郎も何十冊読みました。今は,藤沢周平を読むことが多いです。これらから私の読書の傾向が表れているようで,自分ではよく分かりません。実は,家には書庫があり1万冊以上の蔵書がありますが,半分はコミックです。これは内緒にしておいた方がよいかもしれませんが,子どもの頃からマンガ好きでした。そして,コミックも全巻揃っているものが何十シリーズあります。すぐにマンガ喫茶が開けます。

さて,前置きが長くなりましたが,読書のことを何故書こうと思ったかというと,夢中になって読んでいる本が今あるからです。塩野七生の『十字軍物語』です。十字軍に関しては世界史の教科書程度の知識しかありません。あくまで小説で創作の部分があるでしょうが,へぇーと思ったり驚いたりしながら読み進めています。彼女の著作は大著『ローマ人の物語』も全巻読みましたし,他にも何冊か読んでいます。イタリア在住のこの作家がアンチキリスト教だなと今までも感じる時がありましたが,私は気にせず読んでいます。十字軍遠征に関しては,2000年に当時のローマ法王ヨハネ・パウロⅡ世が教会の犯した罪として謝罪しています。

読書は知識を増やします。読書は視野を広げます。読書は自分の思考を深めます。読書は現実には中々体験できないものを体験させてくれます。そして、本を読むことは理屈なしに楽しいです。それは何歳になっても楽しめると思っています。生徒の中にも読書が趣味という人もいれば,ほとんど本を読まない人もいるでしょう。また,スマホで本を読むのもいいですが,私のような昔人間は1ページ1ページめくる感覚を楽しみながら読むと,深く心にも頭にも入るような気がします。どちらにせよ,読書という美味しいご馳走を全員に食べてほしいです。一皿食べたら,すぐ次の一皿が食べたくなるようになってほしいです。そして,その美味しさ楽しさを知った人が少し骨っぽい本、例えば評論と呼ばれるジャンルにチャレンジしてくれることを望みます。入試でもこれを読み解く力が必要です。私が高校生の頃は,小林秀雄を読むことが一つのステータス?!になっていました。今は名前も知られていないかもしれません。何も彼の著作でなくてよいのです。スラスラ楽しく読める本から,困難を感じながら読み進める本を読破すれば,それが大きな成長になることを実感してほしいです。学力の点だけでなく,人間としても。